6月 浩然の気

学校の授業が終わってから、ヒジョンと一緒に歯医者へ行った。ヒジョンのお父さんが、僕とヒジョンの歯を診てくれた。僕が口を開けていると、ヒジョンのお父さんが「君がうちの娘のボーイフレンドってわけだな?」とからかった。看護師のお姉さんたちまで僕を見て笑った。ヒジョンのお父さんは、僕もヒジョンも歯の状態はいいと言った。

僕たちは記念にチョコレートを一つずつ買って食べた。

今度の土曜日、うちの庭で肉とソーセージを焼いて食べることになった。ささやかなガーデンパーティーだ。父さんが直接ヒジョンの家とドンワンの家に電話して、夕食に招待した。ジョンス叔母さんと叔父さんは先約があるので、少し遅れるかもしれないと前もって断ってきた。

神様に、今週の土曜日だけは絶対に雨を降らせないでくださいと祈った。自然発生的に信仰心が芽生えているようだ。

ジョングが欠席した。担任の先生は、ジョングが病気だと言った。放課後、ドンワンと一緒にジョングの家へ見舞いに行った。玄関の前で呼び鈴を押そうとすると、ジョングの家の中から言い争う声が聞こえた。ドンワンと僕は急いで逃げた。どうか大したことではありませんように……。

朝早く起きた。空は曇っている。土砂降りになっていないだけでも幸いだ。僕が庭を掃き、花壇も片づけていると、父さんが授業に遅れるぞ、早く行けと言った。

今日はなぜか数学の問題もよく解けた。ジェイミーおじさんとの会話も面白かった。ジェイミーおじさんは交通事故に遭って、下半身が動かないそうだ。僕に車椅子を見せてくれた。おじさんは僕にも分かるように、とてもゆっくり、はっきり話す。僕がディープ・パープルの『April』が好きだと言うと、おじさんは『April』の最初の数小節を歌ってくれた。おじさんとはいい友達になれそうだ。

叔父さんは、ジェイミーおじさんは体が不自由なので、自宅で英語講師をしていると言った。おじさんは韓国、日本、フランス、スペインなど、いろいろな国の人にインターネットで英語を教えているらしい。ジェイミーおじさんは本当にすごい。でも、少し痩せたほうがよさそうだった。

家に帰ると、母さんが家の中をきれいに掃除していた。父さんはスーパーで食べ物を両手いっぱいに買って帰ってきた。母さんも父さんも、ガーデンパーティーらしい服に着替えていた。ガーデンといっても、鼻くそほどの庭が全部だけれど、それでもあるだけましだ。今日見ると、父さんもなかなか格好いい。腹も出ていないし、髪型も洒落ている。母さんも細くてきれいだ。最近、僕たち三人は忙しすぎて、お互いをちゃんと見たことがなかったような気がする。

ドンワンの家族がいちばん先に着いた。ドンワンのお母さんはワインを一本持ってきた。ヒジョンはお母さんとお父さんと一緒に来た。ヒジョンのお兄さんは来なかった。同い年くらいの人がいないから嫌なんだとか。ヒジョンのお父さんは高級な洋酒を一本持ってきた。ジョンス叔母さんと叔父さんは一時間ほど遅れて着いた。

父親たちは缶ビールを一本ずつ持ち、庭で肉とソーセージを焼いた。母親たちはパラソルの椅子に座り、上品にワイングラスを持って話をしていた。

聞いてみると、ヒジョンのお父さんはうちの父さんの大学三年先輩だった。学生時代には、お互い一度も顔を合わせたことがなかったそうだ。たしかに人文学部哲学科の学生と歯学部の学生が会う確率は、ほとんどゼロに近そうだ。

父親たちはガールズグループのフラッシュガールとトゥルーカラーズの話で時間を忘れ、母親たちは子どもの数学と英語の勉強の話が尽きなかった。居間ではディープ・パープルの音楽が流れていた。

真夜中ごろ、酔っぱらった父親たちを母親たちが一人ずつ連れて帰った。政治の話はしないほうがよかった。政治の話が出ると、父親たちは酒を二倍くらいの速さで飲み始めたのだ。

朝早く起きて庭を掃除していると、新しく引っ越してきた隣家の屋上部屋のおじさんと挨拶した。おじさんはスリランカから来たシシナだと自己紹介した。僕が外国人をあまり見慣れていないせいか、シシナおじさんが何歳なのか見当もつかなかった。おじさんは一目惚れしてしまいそうなくらい、ものすごい美男子だった。本当に映画俳優になってもよさそうだった。おじさんは京畿道安山にある工場で働いていたが、少し前にグギル洞へ職場を移したそうだ。安山の工場は倒産したと言った。

「じゃあ、給料は全部もらえたんですか? 最近、給料を払わない人が多いって聞きました」

「いろんなこと知ってるな。全部もらったよ。社長さんがいい人だったんだ」

「よかったですね。うちの祖父が言ってました。悪い人が多いんだって」

「そうだな。でも俺は運がいいほうだよ。ここのグギル洞の家具工場も、前の社長さんが紹介してくれたんだ」

シシナおじさんの目には自信が満ちているように見えた。

「おじさん、今度スリランカの話を聞かせてください」

「そうだな。このままだと仕事に遅れる。じゃあ、またな」

シシナおじさんは韓国語が本当に上手だった。話だけ聞けば、韓国人なのか外国人なのか分からないくらいだった。よかった。何がなのかは分からないけれど、とにかく安心した。

朝、ヒジョンが漢江へ自転車に乗りに行こうと言った。もちろん、テレビで顕忠日の記念式典を見るより、そのほうがずっといい。僕たちは自転車で銅雀大橋の下まで走った。ベンチに座り、ヒジョンのお母さんが作ってくれたユブチョバプのお弁当を食べた。本当に世界でいちばんおいしいユブチョバプだった。

ヒジョンがポケットからスマートフォンとY字ジャックを取り出して、つないだ。

「昨日買ったの。このカップルジャック」

ヒジョンは恥ずかしそうに笑った。

「イヤホン出して」

僕は自分のイヤホンを取り出してY字ジャックに挿した。ヒジョンも自分のイヤホンを挿した。ヒジョンが再生ボタンを押し、音量を調節した。

「ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲なの……」

ヒジョンの声は、すぐに美しい旋律に埋もれた。

澄んだ、きれいな音だった。第一楽章が終わり、第二楽章が終わり、続いて第三楽章も終わった。全身に電気が流れるような気分だった。

「ベートーヴェンは、一生にヴァイオリン協奏曲を一曲しか作らなかったんだって」

ヒジョンも音楽に酔ったのか、少し浮き立って見えた。

「最高だな。これがベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲?」

「うん。うちのお兄ちゃん、いつもこれ流してる」

時間が止まってしまったようだった。風まで止まってしまったようだった。

教保文庫に寄って、ベートーヴェンの『ヴァイオリン協奏曲』のCDを買った。自分の部屋の古いステレオにCDを入れると、ヒジョンと一緒に聴いた、まさにあの曲が流れた。僕は音量を上げた。楽しくなって鉛筆を持ち、腕を振り回して指揮者の真似までした。母さんが夕飯だと呼んでいたのに、その声さえ聞こえなかった。母さんが僕の部屋の扉を開け、「いったい何回呼べばいいの?」と言ったので、オーケストラの指揮をやめなければならなかった。

父さんの本棚で音楽関係の本を探していると、面白い題名の本を一冊見つけた。『拍手はいつするんですか?』という本だ。クラシック音楽を聴くときは、好きなときに拍手をしてはいけないらしい。

『拍手はいつするんですか?』から、いくつかの言葉を抜き出した。僕の日記に少し権威が加わった気がする。

音楽は自ら語る。私たちは音楽にその機会を与えてやればいい。―ユーディ・メニューイン(ヴァイオリニスト)

金を使ううえで、最も浪費的な形は間違いなく音楽である。―マウリシオ・カーゲル(作曲家)

音楽は理解しなければ楽しめない、という考えは大きな勘違いである。―マヌエル・デ・ファリャ(作曲家)

幽霊のような、この音のない世界で、私たちに必要なのはまさに音楽である。―インゲボルク・バッハマン(詩人)

好奇心の少ない人は、経験することも少ない。―ゲーテ(詩人・劇作家)

音楽は宇宙の振動、その振動の一部である。―フェルッチョ・ブゾーニ(作曲家)

マウリシオ・カーゲル、この人はいけない。

もしクラシックのコンサートへ行くことになったら、僕は拍手をしないことにしよう。どうも僕がコンサートを台無しにしそうな気がする。

今日は祖父の家で夕食を食べた。僕は皿洗いを終え、祖父と散歩をした。祖父には最近、悩みが一つあるという。祖母がダンススクールに一緒に通おうとせがんでいるのだ。僕が見ても、本当に大きな悩みだと思う。近いうちに祖父と祖母はダンススクールへ通うことになるんだろうな!

散歩を終えて家へ帰る途中、シシナおじさんに会った。近所のちびっ子たちがおじさんの後ろをぞろぞろついて歩きながら、からかっていた。僕が「こら、お前ら!」と言って、ちびっ子たちを追い払った。シシナおじさんはこういうことに慣れているのか、子どもたちにからかわれても笑っているだけだった。なぜかシシナおじさんに申し訳ない気持ちになった。まったく、あのちびども!

英語リスニング評価試験。耳があるから聞こえることは聞こえるけれど、何を言っているのかはさっぱり分からない。

1位 コ・ドンワン

2位 キム・ヒジョン、イ・ジョング

ドンワンは勉強もできるし、運動もできる。友達のあいだでもいちばん人気がある。来学期の学級委員選挙に出たら、当選しそうだ。

でも僕にはヒジョンがいる。

ヒジョンのお父さんがうちの父さんに電話して、明日、道峰山へ行こうと言った。父さんは腰が痛いという言い訳をして、行けないと言った。僕がうちの代表として行くことになった。

ヒジョンにダニエル・ホープの『拍手はいつするんですか?』を貸した。ヒジョンとクラシックのコンサートへ一度行ってみたい。

生まれて初めて道峰山の牛耳岩に登った。浩然の気の本当の意味が分かった。

07:40 起床。

07:50 ヒジョンが電話して、僕が起きているか確認。朝食は食べずにすぐ来るようにと言われる。

08:10 父さんがヒジョンの家まで車で送ってくれる。

08:15 ヒジョンのお母さんが朝食を用意してくれる。腹いっぱい食べる。

08:20 ヒジョンのお母さんが昼のお弁当にユブチョバプを作る。

08:25 ヒジョンのお父さんがユブチョバプを二個こっそりつまみ食いする。

08:26 ヒジョンがユブチョバプを二個持ってきて、僕に一個くれる。

08:28 ヒジョンのお兄さんが一瞬でユブチョバプを三個、口に入れる。

08:30 ヒジョンのお母さんが、ユブチョバプが足りないから道峰山入口でキンパのお弁当を買うように言う。

08:35 ヒジョンのお父さんがトイレに入る。

08:40 ヒジョンのお母さんがチョコパイ、ミネラルウォーター、チョコレートを用意してくれる。

08:45 ヒジョンのお父さんはまだトイレにいる。

08:50 ヒジョンのお父さんがトイレから出てくる。

08:55 ヒジョンのお父さんがカーナビをセット。

08:57 ついに出発!

09:40 道峰山駅の乗換駐車場に到着。ヒジョンのお父さんがトランクからリュックを出し、ドアを強く閉めすぎて全員びっくりする。ヒジョンのお父さん本人がいちばんびっくりする。

10:00 食べ物市場を見物していて、まだ道峰山入口にすら着いていない。

10:10 豚足、キンパを買う。ヒジョンのお父さんがマッコリを見てよだれを垂らすが、運転があるので買わない。運転代行を真剣に考えているように見えたが、確かではない。

10:20 食べ物市場を過ぎて、切符売り場のほうへ向かう。

10:25 牛耳岩方面を探すため地図を見る。しばらく歩くと分かれ道が現れる。ヒジョンと僕が言った道が正しいのに、ヒジョンのお父さんは最後まで自分が正しいと言い張る。結局、ヒジョンのお父さんが言った道へ行く。すぐにヒジョンと僕が言った道が正しかったと判明。ヒジョンのお父さんは、そんなはずはないとずっとぶつぶつ言う。地図が間違っているとまで言う。

10:45 ヒジョンのお父さん、息が上がってしばらく休憩。

12:00 牛耳岩頂上に到着。少し急だったので、僕がヒジョンの手を握ってあげる。突然、心臓が3.14倍も速く動き始め、心臓麻痺になるかと思う。ヒジョンは何ともないように見える。

12:05 記念写真撮影。

12:30 昼食。ヒジョンのお父さんが、豚足ばかりだとぱさぱさすると、ずっと文句を言う。周りでマッコリを飲んでいる人たちを羨ましそうに見る。

12:55 渓流の水に足を浸す。ヒジョンのお父さんが、これを濯足というのだと教えてくれる。足がものすごく冷たい。

14:40 下山完了。

14:50 駐車場から家へ出発。

15:50 ヒジョンの家に到着。うちの母さんと父さんがヒジョンの家で待機中。

16:20 ヒジョンの家族とうちの家族、みんなでチムジルバンへ行く。

家に帰るなり、ベートーヴェンの『ヴァイオリン協奏曲』をかけたまま爆睡した。

母さんが旅行会社の人手が足りないと言って、新しい社員を二人も雇った。父さんは毎朝、出勤戦争だ。父さんは本当に会社へ行きたくないらしい。母さんによると、父さんは首と腰がかなり痛いそうだ。一日じゅうコンピューターの前に座って働いてきたせいでできた職業病らしい。

僕が見るかぎり、うちのソファも一役買っている気がするけど……。

母さんが父さんに一年間のサバティカル休暇を与えた。父さんは明日にでも辞表を出して、今月中に会社を辞めると言っている。母さんが父さんに、仕事の引き継ぎをするなら少なくとも一か月くらいはかかるんじゃないのと聞いた。すると父さんは「引き継ぐものなんて何がある?」と言うではないか。会社での父さんの立場がどの程度なのか分かるくだりだった。

父さんは一家の主としてのすべての権限を母さんに移譲すると宣言した。移譲する権限なんて、そもそもあったのか?

父さんが会社に辞表を提出した。二週間後から父さんは正式に失業者だ。つまり、母さんは実業家、父さんは失業者、僕は学生。本当にダイナミックな家族だ。

もし家の中で何か起きたら、僕は母さんの味方につこう。

父さんの顔に生気が戻っている。もしかして今まで仮病だったんじゃないだろうか?

知らせを聞いた祖母が母さんに電話をした。母さんは旅行会社の仕事がうまくいっているから心配しないでくださいと、祖母を安心させた。十五年間休まず働いたのだから、一年くらい休むのも必ずしも悪いことではないと言った。うちの母さん、本当に格好いい。

まさか父さん、一年以上休んだりしないよね?

うちの父さんがヒジョンのお父さんに電話して、道峰山へ行こうと言った。僕はドンワンにも一緒に行こうと連絡したが、ドンワンの家族は今週末、辺山半島へ旅行に行くそうだ。

結局、先週のメンバーに父さんだけ追加で参加することになった。父さんがちゃんと登れるか心配だ。父さんは一日に五百歩も歩かないからだ。

ジェイミーおじさんに、先週の道峰山登山について説明するのに汗だくになった。僕がマウンテン・クライミングをしたと言うと、おじさんがびっくりするではないか。おじさんは都市の近くにそんな高い山があるのかと不思議そうにした。それで僕はこう答えた。

“Seoul has many many mountains.”

生まれて初めて、五つの単語を続けて言った。もちろん、それが重要なわけではない。

ジェイミーおじさんはまだ驚いた顔をしながら、ザイルがどうとかビバークがどうとか話し続けたが、僕には何を言っているのかまったく分からなかった。おじさんは僕がマウンテン・クライミングをしたと言ったので驚きすぎて、僕にはゆっくり話さなければならないことをしばらく忘れてしまったようだった。

あとで叔父さんに聞くと、マウンテン・クライミングではなくハイキングと言えばすぐ分かっただろうと言った。あちらの人はクライミングと言うと、たいていロッククライミングを思い浮かべるそうだ。ただ数時間歩いて帰ってくるのはハイキングと言うらしい。じゃあトレッキングは何なのかと僕が聞くと、叔父さんは、ハイキングを何日も続けることだと教えてくれた。

うちの父さんとヒジョンのお父さんは、しばらく登山をしないことにした。僕が見ても、それが健康を守る秘訣だと思う。

07:00 起床。天気を確認。雲は多いが晴れ。

07:15 父さんが起きない。

07:20 父さんが山へ行かないと言う。母さんまで起きて父さんを起こす。父さんはまだ起きない。ついに母さんが、父さんのサバティカル休暇を取り消すと脅す。父さんが飛び起きる。

07:25 父さんがトイレで居眠りしているのを、やっと起こす。

07:30 ヒジョンに電話して、8時10分までに着くと言う。ヒジョンは8時20分までに来てと言う。ヒジョンのお父さんがまだ起きていないので、今起こしているところだと言う。

07:40 母さんが用意してくれた朝ごはんを食べる。父さんはスプーンを口に運ぶでもなく、ほとんど食べない。母さんがしっかり食べなさいと言う。父さんは汁物にご飯を入れ、噛みもせず飲み込む。

08:00 母さんが水と果物を用意してくれる。弁当は道峰山の下の市場で買うようにと言う。

08:20 ヒジョンの家に到着。ヒジョンのお母さんが昼のお弁当にユブチョバプを作っている。

08:25 父さんがユブチョバプを二個つまみ食いする。

08:26 ヒジョンのお母さんが、ユブチョバプはお弁当に入れるのだから、父さんにつまみ食いしないでと言う。

08:28 ヒジョンのお父さんがトイレに入る。

08:35 ヒジョンのお父さんがトイレから出る。

08:45 カーナビをセット。

08:48 ついに道峰山へ出発!

09:30 道峰山駅の乗換駐車場に到着。

09:40 食べ物市場で豚足とキンパ四本を買う。キュウリも四本買う。

09:50 切符売り場の前でコースをめぐって言い争う。うちの父さんとヒジョンのお父さんは神仙台まで登ろうと言う。僕とヒジョンは、それは無理だ、牛耳岩で十分だと言う。ヒジョンのお父さんは、今日は神仙台まで登らなければならないと頑として言い張る。

10:05 うちの父さん、息が上がる。

10:10 ヒジョンのお父さんも息が上がる。

10:55 道峰山荘を過ぎると、人々が集まって休んでいる。ヒジョンのお父さんは、ここがマダン岩だと言う。僕とヒジョンはキュウリ一本を半分ずつ食べる。父さんがポケットナイフでキュウリの皮をむこうとしたが、僕たちはみんな皮ごと食べていた。父さんは気まずそうにポケットナイフをしまう。ヒジョンがうちの父さんを見てくすくす笑う。

11:10 本物のマダン岩に到着。さっきキュウリを食べた場所はマダン岩ではなかったことが判明。ヒジョンとそこを「偽マダン岩」と呼ぶことにする。本物のマダン岩に登ると視界が一気に開け、浩然の気がぐんぐん育つ。登り坂で僕がヒジョンの手を握ってあげる。胸がどきどきする。

11:20 マダン岩から紫雲峰へ向けて出発。本当の登山が始まる。うちの父さんとヒジョンのお父さんは汗で風呂に入ったようになる。

12:30 神仙台に登る。神仙台の最後のコースは少し怖かった。ヒジョンは少しも怖がらなかった。人が多すぎて神仙台には長くいられない。ソウル市内が一望できる。記念写真撮影。

12:35 神仙台の頂上で、ヒジョンが僕の手をそっと握る。心臓が百万倍速く動き始める。

12:40 誰かが今日のソウルの気温は32度だと言うと、うちの父さんとヒジョンのお父さんが同時にひどいめまいを感じる。

13:00 ユブチョバプ、キンパ、豚足、ゆで卵、キュウリを昼食に食べる。うちの父さんとヒジョンのお父さんの顔色が少し戻る。マッコリを一杯、心から欲しがる。渓谷が始まるところで濯足をする。足も冷え冷え、頭も冷え冷え。涼しい。

15:00 下山完了。詩人キム・スヨンの詩碑の前で記念写真撮影。

16:30 道路が渋滞して、30分遅れてヒジョンの家に到着。

17:00 みんなでチムジルバンへ行く。うちの父さんとヒジョンのお父さんは睡眠室に入って、いびきをかきながら眠る。いびきがあまりに大きくて、睡眠室にいたほかのおじさんたちが逃げ出す。誰かが「二連砲だ」と言う。

20:00 うちの父さんが、しばらく山には行かないと宣言。ヒジョンのお父さんも宣言に参加。母親たち、大歓迎。

神仙台でヒジョンがそっと僕の手を握った、あの感触を思いながら眠りについた。

幸せ終わり、不幸始まり。期末試験の日程が発表された。

放課後、ドンワンの家へ行って一緒に勉強した。試験科目が八つもあるので、何から勉強すればいいのか分からない。ドンワンは、まず国語・英語・数学を固めて、ほかの暗記科目はゆっくりやればいいと教えてくれた。それで今週は数学に集中することにした。

国語と英語が不安だ。

今日も放課後、ドンワンの家へ行って一緒に勉強した。数学に集中しようと思ったのに、国語と英語が心配で、あまり進まなかった。

暗記科目も心配だ。

ジョンス叔母さんが家に電話してきた。今週は、とりあえず数学だけ勉強しろと言う。うちの母さんと父さんは、僕の期末試験にまるで関心がないのに……。

父さんが母さんに鼻にかかった声で、ヨーロッパ行きの航空券を一枚だけくれとねだっている。来月ヨーロッパ旅行へ行きたいと、歌うように繰り返している。うちの父さん、ほんと、いい度胸してる。

父さんは理性を失ったらしい。ヨーロッパ旅行の本を三冊も買ってきた。父さんは旅行本が母さんの目につくよう、食卓の上に置いておいた。ところが母さんは食卓の本を見るなり、「ビョク、本を読んだら片づけなさい!」と僕を叱った。父さんが本を読んでいる姿を見なくなってあまりに久しいので、母さんは僕が本を散らかしたのだと思ったらしい。僕が弁解しようとすると、父さんは素早く旅行本を片づけた。

ジョンス叔母さんの家に一日じゅう捕まっていた。朝から数学の勉強、ジェイミーおじさんとの英語フリートーキング、昼は叔母さんが作ってくれたカレーライスを食べ、午後はまた数学の勉強。

「87点だ。ただし、ミスを一つもしなければな」

叔母さんが僕の期末試験の数学の点数を予言した。神託を受けたギリシャの英雄になったような気分だった。87点なら十分じゃないか!

父さんが僕に秘密の提案をしてきた。今年の夏休みにヨーロッパへ行きたいと母さんにねだれというのだ。そうすれば父さんが保護者としてついていくという。僕は父さんが買ってきたヨーロッパ旅行の本を、また食卓の上にきちんと置いておいた。

母さんの爆弾宣言!

七月末にヨーロッパへ出発する割引航空券を、父さんにプレゼントするという。父さんはこの十五年間、家族のために一生懸命働いてきたから、これくらいは享受する権利があるというのだ。父さんが鼻にかかった声で「君、愛してる」と言うと、母さんは「直行便じゃなくてごめんなさい」と、同じく鼻にかかった声で答えた。僕も鼻にかかった声で「僕は?」と言ったら、父さんが「お前は期末試験の勉強しろ」と言うではないか!

父さんは裏切り者だ!

父さんが母さんにサバティカル計画表を提出した。母さんは書類審査中だ。

父さんのサバティカル計画表が書類審査で落ちた。禁煙についての項目が抜けていたからだ。

父さんのサバティカル計画表が、どうにか合格した。よかった。父さんは明日まで会社へ行けば失業者の身分だ。それなのに堂々としている。全部、母さんのおかげだ。

― 父さん、ホ・スジョンのサバティカル計画表 ―

  1. タバコをやめる。
  2. 保険会社に健康体割引を申請し、必ず審査に通る。
  3. いつもどおり七時に起きる。
  4. 家事をすべて担当する。(例:基本的なおかず作り、皿洗い、生ごみ処理、買い物、掃除、洗濯など)
  5. 実家の母親に、絶対におかずを作ってくれと頼まない。
  6. 昼間、家でテレビを見ない。
  7. コーヒーをたくさん飲まない。一日一杯だけ!
  8. 腕立て伏せを一日30回する。
  9. 懸垂を10回以上できる体にする。
  10. ご飯をゆっくり食べる。
  11. 夜食を絶対にしない。
  12. 飲みすぎない。
  13. 運転中に悪態をつかない。
  14. 足の爪をきちんと切る。
  15. 妻ミン・ジョンランに忠誠を尽くす!

僕のことは一つも書いてない。拾われてきた子でもないのに……。

もう一年の半分が過ぎた。月日がたつのは本当に早い。

放課後、ドンワンと一緒に試験勉強をすることにした。学校を出ようとすると、校門の前にジョングが見知らぬおじさんと一緒にいた。僕たちは何かあったのかと心配になり、「ジョング!」と声の限り呼んだ。ジョングと見知らぬおじさんが驚いて僕たちを見た。

「お前ら、試験勉強しに行くのか?」

ジョングが僕たちを見て手招きしながら聞いた。

「うん。お前も一緒に行く?」

ドンワンが言った。

「俺の兄貴だ。お前ら、挨拶しろ」

ジョングのお兄さんは、僕たちより少なくとも五歳は年上に見えた。ジョングに兄がいることを、今日初めて知った。僕はこれまで一度もジョングの家へ遊びに行ったことがなかった。たしかドンワンも行ったことがないと言っていた気がする。実のところ、あまり行きたいとも思わない。あいつの父親と母親は怖すぎる。

考えてみると、僕はジョングについてあまり何も知らない。僕のほうから連絡して会ったことは、一度もなかった。ジョングは機嫌がいいときはエネルギーにあふれて活発だが、そうでないときはしょんぼりして静かだった。

「兄ちゃん、もう行くからな。元気でいろよ。分かったな? また来るから」

ジョングのお兄さんが言った。

するとジョングは兄を両腕で抱きしめた。兄はジョングの背中を軽く叩いた。

僕たち三人は、しばらく黙って歩いた。ジョングが先を歩き、僕とドンワンは三、四歩後ろを歩いた。ジョングは僕たちのほうへ顔を向けると、

「うちの兄貴、一緒に住んでないんだ。くそ」

と言った。

僕は何と言えばいいのか分からなかった。

「兄貴、高二のとき家を出たんだ。父さんにめちゃくちゃ殴られてさ。くそ」

ジョングはそう言って、遠ざかっていった。

今日にかぎって、ジョングの影がひどく長く見えた。