7月 パリが僕たちを呼ぶとき

英語の時間にマイルズ先生が、7月を July と呼ぶのはローマの政治家ユリウス・カエサルに由来すると教えてくれた。カエサルが死んだあと、後世の人々が7月に彼の名前をつけたのだそうだ。そしてカエサルの養子で、ローマ初代皇帝となったアウグストゥスから、8月の August が生まれたとも教えてくれた。残念ながら、この話の意味が分かるクラスのやつはあまりいなかった。カエサルやアウグストゥスがスーパーマンやバットマンでもないのに、あいつらが知っているわけがない!

うちの父さんは今日から失業者だ。あんなに幸せそうな失業者が、この世にほかにいるだろうか。父さんが幸せそうなので、僕もうれしい。先のことは先になってから心配すればいい。

ジョンス叔母さんが、先週出してくれた数学の宿題を見ながら「やれそう?」と聞いた。

僕は、

「はい。でも叔母さん、時間が足りないんです。試験のときも時間に追われます」

と答えた。

すると叔母さんは、

「それはまだ基礎が足りないからよ。これから宿題をもっと増やさないとね」

と言うではないか。

ううっ!

午後はヒジョンの家で一緒に試験勉強をした。ヒジョンは記憶力がいい。授業中に一度聞いたことを、何でもよく覚えている。どうして僕は覚えていないんだろう。

たった一人の息子が人生の一大事である期末試験を目前に控えているというのに、母さんと父さんは明日、二人で江華島へドライブに行くという。僕にも少しは気を使ってほしいと言ったら、父さんはこう言った。

「うちの教育方針は放牧だ。父さんもそうやって育った」

祖母に確認してみなければならない。

祖母は父さんを放牧して育てたことなどないと言った。むしろ甘やかしすぎて育てたことを後悔しているそうだ。

やっぱり!

それほど長くもない僕の人生で、初めて本気で勉強して試験を受ける。

大人が使う言葉で、今の僕の状態を整理してみた。

尽人事待天命。

試験一日目。

国語。蒔いた種は自分で刈り取った。

社会。パッカサリ科目だ。理由なんて必要だろうか。

道徳。一生懸命勉強したのに、どうして試験を失敗したんだろう。ひょっとして僕には道徳的な問題があるんじゃないだろうか。

試験二日目。

英語。お前が僕を救った。

音楽。そもそも音楽はどうして筆記試験を受けなければならないんだ!

試験三日目。

科学。科学まで得意になる必要はない。身の丈に合わせて生きるというではないか。

漢文。試験は簡単だった。先生のおかげだ。

試験四日目。

数学。ジョンス叔母さんの予言は外れた。91点だ。

ジョンス叔母さんに電話して、数学が91点だったと自慢した。

すると叔母さんは、本当に91点なら、ビョクが欲しいものを一つ買ってあげると言った。

今日は数学も英語も授業がない。叔母さんは叔父さんと東海岸へ旅行に出かけたし、ジェイミーおじさんは体調がよくないそうだ。

生きていれば、こんな日もなくちゃ。

ヒジョンがうちへ遊びに来た。僕たちは父さんが旅行の計画を立てるのを見物した。

父さんは最初、母さんの顔色をうかがいながら、二週間くらい風に当たってくるだけだと言っていた。

ところが横で母さんが、

「ヨーロッパなんて行くのも大変なんだから、一か月くらいいたほうがいいんじゃない?」

と言うと、父さんはすぐ旅行期間を一か月に修正した。

仁川―ロンドン―ブリュッセル―ハイデルベルク―フランクフルト―プラハ―ウィーン―ヴェネツィア―ローマ―ミュンヘン―チューリヒ―インターラーケン―チューリヒ―バルセロナ―マドリード―パリ―仁川。

母さんは父さんの日程表を見ると、

「あなた、自分が二十代だと思ってるの?」

と言った。

父さんが気まずそうに笑った。

「そんなことしないで、一つか二つの都市だけ回ってきたら? 一か月か二か月くらい」

「二か月も? 本当に?」

父さんの両目が今にも飛び出しそうだ。

「旅行代は?」

「退職金で行けばいいじゃない」

「母さん、僕は?」

僕が鼻にかかった声で割り込んだ。

「あなたは大きくなったら、自分で稼いで行けばいいでしょ」

先週、江華島へ旅行してきてから母さんが変わった。父さんに親切すぎる。

江華島で何かあったに違いない。

父さんはヨーロッパ旅行の日程を最初から見直すと言っている。

大変だ。

下手をすると僕一人、夏休みじゅう床でもこすって過ごすことになりそうだ。

父さんはヨーロッパへ、母さんは会社へ、僕だけ部屋にこもって「バンコク」だ!

ヨーロッパ旅行についていく方法を考えてみたが、可能性が低すぎる。

方法1。ハンガーストライキ。(成功率15%。十日ほど食べなければ成功率70%)

方法2。僕の人脈(祖父、祖母、ジョンス叔母さんなど)を総動員して母さんに圧力をかける。(成功率10%)

方法3。父さんの旅行鞄に隠れる。(成功率5%)

いくら考えても適当な方法が浮かばない。

赤色警報状態だ!

午後、ヒジョンがチョコパイと牛乳を持ってきてと電話してきた。自分のお母さんに見つからないよう、鞄にこっそり入れて来いと言う。そして理由は聞くなと言う。

僕はヒジョンに言われたとおりにした。

ヒジョンが望むことなら何でもできる。

僕の愛に理由なんてない。

ヒジョンの家へ行くと、ヒジョンは無期限ハンガーストライキ中だった!

夏休みに英語キャンプへ行かないと言い張っているのだ。

ヒジョンは去年も英語キャンプへ行ったが、面白くもなかったし、英語力の向上にもたいして役に立たなかったと言った。

その代わりヨーロッパ旅行へ行かせてくれとねだっている。

わあ!

ヒジョンは本当にいい度胸してる。

僕がチョコパイと牛乳を鞄から出して渡すと、ヒジョンがにっこり笑った。

僕は息が止まるかと思った。

ヒジョンは、今夜くらいには父さんがとうとう許してくれるだろうと言った。

だから僕も母さんと父さんをうまく説得してみろと言う。

僕は、うちではそんなに簡単な話ではないと言った。

するとヒジョンがこう言った。

「ビョク、私とパリに行きたくないんだ?」

十日間何も食べなくても、ヒジョンとパリへ行かなければならない。

そうだ!

明日からハンガーストライキだ。

今夜は特別にたくさん食べておこう。

ジョンス叔母さんの予言は当たっていた。

数学は87点だった。

記述問題で4点も減点された。

まだハンガーストライキは始めていない。

僕が断食しても、うちにはそれに気づく人が誰もいない。

そこが問題だ。

結局、ヒジョンが勝った。

これは僕のチョコパイのおかげだ。

ヒジョンのお母さんが、うちの母さんの旅行会社に電話をした。

8月初めにヒジョンのお父さんとヒジョンがパリへ旅行に行くので、航空券とホテルを調べてほしいというのだ。

ヒジョンのお母さんは飛行機恐怖症なので一緒には行かないそうだ。

なんということだ!

あんな飛行機の何が怖いんだろう。

ドンワンは夏休みが始まるとモンゴルへ行く。母方の実家で二週間ほど過ごして帰ってくるそうだ。

ジョングは、ある大学で開かれる英語キャンプへ行く。ヘソンもジョングが行く英語キャンプに一緒に参加するそうだ。

もちろん、お母さんにはジョングの話はしていないと言った。

当然だ。

僕だってわざわざそんなことは言わないと思う。

なんだか少し考えなしに見えるじゃないか。

終礼後、4組とバスケットボールの試合をした。

今日はドンワンとジョングが本当に飛び回った。

僕たちのクラスが10点以上の差で勝った。

4組の女子までドンワンに惚れた。

ヘソンもジョングに夢中だ。

僕には分かる。

恋に落ちた者たちの目を……。

父さんのヨーロッパ旅行の日程が決まった。

パリで丸々一か月過ごしてからローマへ移動し、そこでまた一か月過ごして帰国するという。

母さんは父さんに、パリからローマへ行く途中でミラノとフィレンツェに寄ったらいいと言った。

父さんが、

「そうなの?」

と聞くと、母さんは旅行の勉強が足りないと父さんを叱った。

どうして僕は眼中にないんだろう。

このままだと本当に、うちの父さん、ヒジョンのお父さん、ヒジョンだけでパリへ行くことになりそうだ。

事態は破局へ向かっている。

旅行の最盛期なので、ホテルも飛行機の席もない。

むしろよかった。

原油価格も連日急騰しているし、ヨーロッパも経済危機だというのに、何がヨーロッパ旅行だ。

それにヒジョンのお父さんも、患者をどうするつもりで十日間も病院を空けるのか分からない。

責任ある医者なら、してはいけないことだ。

ヒジョンのお父さんの患者たちは、歯が少しくらい痛くても十日くらい我慢したほうがいいと思う。

医者だって人間なのだから、休暇くらい行かなければならないではないか。

母さんがついに、僕も父さんについてパリへ行っていいと許可してくれた。

ヒジョンはうれしくてたまらない様子だ。

うちの父さんとヒジョンのお父さん、ヒジョンと僕。

四人で一緒にパリへ行く!

飛行機の席とホテルを見つけるのは、空の星を取るように難しい。

大変だ。

父さんまで危機感を抱き始めた。

原油価格も天井知らずに上がり、欧州連合も危機だというのに、どうしてヨーロッパ旅行へ行く人がこんなに多いのか分からない。

この人たちには済州島旅行を勧めたい!

ジョンス叔母さんの家で数学と英語の勉強を終え、ヒジョンと一緒に叔母さんが作ってくれたカルグクスを食べた。

叔父さんが僕たちの事情を聞くと、

「じゃあ、パリのステュディオかアパルトマンを借りればいい」

と言った。

「アパルトマン?」

ヒジョンと僕が同時に聞いた。

「そう。アパルトマンかステュディオ。まあ、似たようなものだけど」

「叔父さん、どうやって借りるんですか?」

「フランスは6月から休みだから、韓国人留学生がステュディオやアパルトマンを又貸しするんだ。短ければ一か月、長ければ二、三か月。お前たちは二部屋か三部屋あるところを借りればいい。それかステュディオを二つ借りるとか」

「本当ですか?」

僕は叫んだ。

「おい、ホ・ビョク! 落ち着け、落ち着け」

叔母さんが笑った。

叔父さんは父さんに電話をし、父さんはまたヒジョンのお父さんに電話して同意を取った。

全員オーケーだ。

父さんは叔父さんに教えてもらったフランス留学生のコミュニティーサイトを、しらみつぶしに探した。

メールを十二通も送り、二十回以上電話した。

父さんは留学生たちが全然電話に出ないと文句を言っている。

授業中なのかな?

たまに向こうが電話に出ても、変なフランス人の女が、

「ボンジュール」

と言ってフランス語で話しかけてきた。

父さんが僕にも聞かせてくれたので、これは確かだ。

僕たちは毎回、一言も話せないまま、すぐ電話を切った。

結局、8月の一か月だけ家を貸してくれる人は見つからなかった。

父さんは、とりあえず待ってみようと言う。

いったい何を待つというのだ!

母さんが苦労して飛行機のチケットを四枚手に入れた。

8月1日にパリへ出発し、8月12日に帰国する日程だ。

もちろん直行便だ。

しかも超繁忙期。

本当に母さんが大奮発した。

僕は拾われてきた子ではないらしい。

安心した。

父さんがパリへ送ったメールのうち、まだ有力な二件から返事が来ていない。

僕たちはみんな、そこに希望をかけている。

もちろん、うちの父さんを除いて。

父さんは、もし宿が見つからなければ、閑散期の9月に一人で出発すると余裕を見せている。

父さんが僕の実の父親なのか疑わしくなってきた!

ジョングが憂鬱そうだ。

何かあったのだろうか。

ドンワンが話しかけても、ろくに返事をしない。

ジョングの目は赤い。

僕の頭の中では、ありとあらゆる想像が膨らんだ。

〈ひょっとするとジョングのお父さんは警察官ではなく、スパイなのかもしれない。警察官ではあるけれど、同時にスパイでもある警察官だ。つまり映画によく出てくる潜伏スパイみたいな人なのかもしれない。警察に潜入して、わが国の高度な情報を敵国へ流しているのではないか。

ではジョングのお母さんは?

そうだ。ジョングのお母さんも、最初はスパイだったに違いない。スパイがスパイでもない女と結婚するはずがない。

夫婦スパイ団だったのだ!

ところがジョングのお母さんは、警察署長の高い給料に味をしめて、スパイとしての本分を忘れ、金を使う楽しさにすっかりはまってしまったのかもしれない。

そのせいでジョングのお父さんとお母さんの対立が激しくなった。

そんな中、ジョングのお父さんはジョングのお兄さんに八つ当たりしたのだろう。

なぜなら、自分の妻がスパイ活動に不真面目だなどと、どこにも訴えることができないからだ。

もし上部組織に報告すれば、無能だと言われて暗殺されるかもしれない。

警察に通報すれば、エイプリルフールもとっくに過ぎたのに何の冗談だと言われて、周りの人の笑いものになるに決まっている。

しかも本人が警察官なのに、どこへ通報するというのだ。

ジョングのお兄さんは、父親の暴力とスパイである両親から逃げたのだ。

けれど両親を売り渡すことはできないので、通報もできずにいる。

ジョングに会いたい兄は、両親の目を盗んで、ときどき学校までジョングに会いに来ていたのだ。

だから最近ジョングは心が乱れて、憂鬱なのだ。

ということは、僕はスパイの子どもを友達にしていることになるではないか!

これを通報するべきか?

やめるべきか?〉

僕はそんな想像をしていた。

「ジョング、お前どうしたんだ? 何かあるだろ?」

ドンワンがもう一度ジョングに聞いた。

「のどが、腫れて、しゃべれない」

ジョングがやっと答えた。

祖母がダンススクールに登録した。

運動音痴の祖父も一緒に登録した。

祖父に選択肢はなかったのだろう。

祖父は祖母にはまったく逆らえない。

まあ、これはうちの家系らしいけど。

ヒジョンは、うちの祖父と祖母は素敵だと言って、ダンスホールを見に行こうとせがんでいる。

僕は踊りもしないのに、「ダンス」という言葉を聞くだけで胸がむかむかする。

祖父が気の毒だ。

でも運命だ。

パリからは、まだ連絡がない。

夏休みだ。

ついにパリの宿の問題が解決した。

結局、叔父さんが乗り出して解決してくれた。

これまで父さんはパリへ電話をかける方法を間違えていたのだ。

国番号と市外局番のあいだにある0を抜かなければならなかったらしい。

父さんはそれも知らず、留学生たちが電話に出ないと腹を立てていたのだ。

さらに叔父さんは、「ボンジュール」と言っていたあのフランス人の女は、電話会社の自動音声案内だと教えてくれた。

自動音声だ!

この話を聞いたら、父さんと一緒にパリへ行っても大丈夫なのか、急に怖くなった。

僕たちに家を貸してくれることになった人は、留学七年目の夫婦で、小さな娘も一人いる。

一家は8月の一か月間を韓国で過ごし、それからまたパリへ戻るそうだ。

向こうでは9月から学校が始まるらしい。

うらやましい、うらやましい。

とにかく7月28日にソウルで留学生夫婦と会うことになった。

そのとき家賃と保証金を渡し、宿の鍵を受け取ればいい。

留学生夫婦はアパートの写真をメールで送ってくれた。

写真を見ると、宿は鼻くそほどの部屋が三つ、鼻くそほどの台所兼リビングが一つ、鼻くそほどの浴室が一つだった。

留学生夫婦からのメールには、いろいろな注意事項が書いてあった。

― ステュディオ利用時の注意事項 ―

住所:9 Rue Jacques Louvel Tessier 75010
この建物の101号室です。(韓国式では2階)

地下鉄ゴンクール(Goncourt)駅から徒歩1~2分(11号線)

地下鉄レピュブリック(Republique)駅から徒歩5~6分(3、5、8、9、11号線)

シャルル・ド・ゴール空港に着いたら、ロワシーバス乗り場があります。そこからバスに乗り、オペラ座で降りてください。それから地下鉄に乗り、ゴンクール駅2番出口から出てください。出口の前に携帯電話ショップがあります。そこから下のほうへ歩くとカフェが一軒見えます。カフェから左へ30メートルほど歩くと、大きな赤い門があります。

  1. 門のパスワード:3464(玄関の鍵はソウルでお渡しします)
  2. Wi-Fi:NEUF_4EBC
  3. Wi-Fiパスワード:gabyuff5ufbubduobxxe(長いので、一文字も抜かさず入力してください)
  4. シャワー室の扉を開け閉めするときは注意してください。ガラスが割れることがあります。
  5. シャワーを浴びるときは必ず換気扇を回してください。カビが生えることがあります。
  6. シャワーの水が壁にかからないよう注意してください。水がかかった場合は拭いてください。
  7. 冷蔵庫の扉はしっかり押して閉めてください。軽く押すだけでは閉まらず、少し開いたままになります。
  8. 冷蔵庫の扉がきちんと閉まっているか必ず確認してください。
  9. 炊飯器の内釜はスポンジだけで洗ってください。
  10. 洗濯機は昼間だけ使ってください。夜に洗濯機を回すと隣家から苦情が来ます。
  11. 夜遅く騒ぐと、隣家から苦情が来ます。
  12. 韓国食料品店ラッキーマート:オペラ座から証券取引所方面へ歩くとあります。(住所:63 Rue Sainte-Anne)
  13. 韓国食料品店OKマート:ラッキーマートからオペラ方面へ5分ほど歩くとあります。
  14. 韓国食料品店の商品:米、キムチ、豚足、刺身、キンパ、各種野菜などを販売。
  15. ゴンクール駅周辺はフランス人、黒人、中国人、トルコ人、アラブ人など、さまざまな人種が暮らしています。人種的偏見のある方は住めません。この点を十分にご留意ください。もちろん治安は良好です。楽しい旅行を。

僕はヒジョンにメールを転送し、急いでヒジョンの家へ行った。

ヒジョンとGoogleマップで宿の場所を探した。

Googleに住所を入れると、メールで見たあの赤い門がすぐに出てきた。

Googleストリートビューで地下鉄駅の近くも見て回った。

僕たちは、もうパリにいるような気分だった。

夕方、家に帰って父さんのヨーロッパ旅行本を見ながら予定を立てた。

ところがパリの内容があまりにも薄かった。

必要もないイギリスとドイツとスペインの内容ばかり、たくさん載っていた。

父さんは、どうしてこの本を買ったんだろう。

そういえば、どうしてうちにはこんなに本が多いのか、少し分かったような気もする。

僕は旅行本を見ながら、行きたい場所を一つずつチェックしていった。

それだけでも胸がかなり高鳴った。

ところが叔母さんから電話がかかってきて、数学の宿題を山ほど出されたせいで、一気に気分が冷めた。

叔母さんは、数学の宿題が最優先だと言う。

うわあ!

ヒジョンのお父さんは病院の入口に、7月28日から8月15日までヨーロッパ歯科学会出席のため休診する、という張り紙を貼った。

学会は何が学会だ。

数学の宿題を全部終えてから、ヒジョンの家へ行った。

ドンワンも来ていた。

ドンワンは何も言わないけれど、モンゴルよりパリへ行きたいように見えた。

この世の誰が、エッフェル塔とセーヌ川を置いて、砂漠みたいなモンゴルへ行きたいだろうか。

僕たちはパリについて知らなすぎた。

そこでまず、パリに関係する映画を三本選んだ。

本を選ぶときは叔父さんが手伝ってくれた。

やはり、うちの父さんより叔父さんのほうがたくさん知っているようだ。

― 映画 ―

  1. 『パリがあなたを呼ぶとき』(明日、ドンワンの家で一緒に見ることにした)
  2. 『フレンチ・キス』(これはヒジョンが選んだ)
  3. 『アメリ』(もう見た映画だけれど、復習の意味でもう一度見ることにした)

― 本 ―

  1. 『パリの場所たち』(この本は叔父さんが父さんに貸してくれるそうだ)
  2. 『パリを考える』(この本も叔父さんが父さんに渡せと言う。結局、叔父さんは僕たちには一冊も本を貸してくれなかった。「お前たちは図書館で自分たちのレベルに合う本を探しなさい」だって。叔父さん!)
  3. 各種旅行本(叔父さんは国会図書館へ行けば旅行本がたくさんあると言った)

父さんは今日から禁煙だ。

禁煙に失敗すれば、サバティカル休暇も返上だと母さんが脅した。

母さんは、父さんがパリでタバコを吸ったら写真を撮っておけと言う。

母さんは写真一枚につき一万ウォンのパパラッチ報奨金をかけた。

パリから帰ってきたら、独立できるくらいまとまった金ができそうだ。

ドンワンの家で『パリがあなたを呼ぶとき』を見た。

題名にパリと入っているだけで、実際のパリはたいして出てこなかったのでがっかりした。

映画が終わると、僕たちは叔父さんに教えてもらったとおり国会図書館へ行った。

ところが入館できないという。

学校長か司書教諭の推薦状がなければ入れないそうだ。

いや、僕たちだってれっきとした大韓民国の国民だし、まだ税金は払っていないけれど、これから払うのに、いくらなんでもひどすぎる。

それに僕たちはみんな、図書館の近くに住んでいるではないか!

ヒジョンが、うちの母さんの旅行会社には旅行本がたくさんあるんじゃないかと聞いた。

僕は、あれは事務所で見る本だから借りられないと言った。

結局、僕たちは教保文庫へ行った。

世界中の旅行本が、まさにそこにあった。

家に帰ると、父さんが『アメリ』を見ていた。

僕は明日ヒジョンと見る約束をしていたけれど、予習のつもりで先に見ておいた。

サン・マルタン運河には絶対に行きたい。

叔父さんに、国会図書館に入れず追い返されたと言ったら、そんなはずはないと言う。

何が「そんなはずはない」だ!

叔母さんは、僕の数学の実力が少しずつ基礎を固めつつあると褒めてくれた。

今日は特別に英語の授業も一生懸命やった。

ジェイミーおじさんは、僕がパリへ行くと言うと、ものすごくうらやましがった。

おじさんも、いつか必ずパリへ行ってみたいと言った。

「そうですよ。おじさんも絶対パリへ行ってください」

と言ってあげた。

するとおじさんは満面の笑みを浮かべ、僕の英語がどんどん上達していると褒めてくれた。

今日は褒められたのが、なんと二回もあった。

授業が終わったあと、ヒジョンの家で『アメリ』を見た。

何度見ても飽きない。

見るたびに気分がよくなる映画だ。

ヒジョンは、アメリが水切りをするサン・マルタン運河へ行ってみたいと言った。

僕たちはパリで絶対に行きたい場所のリストを作った。

― パリで絶対に行く場所 ―

  1. エッフェル塔
  2. ルーヴル美術館
  3. オルセー美術館
  4. サン・マルタン運河
  5. オランジュリー美術館
  6. ノートルダム大聖堂
  7. サン・トゥアン蚤の市
  8. ロダン美術館
  9. クリュニー中世美術館
  10. モンマルトルの丘
  11. シテ島からサンジェルマン大通りまで歩く
  12. ポンピドゥー・センター
  13. 凱旋門
  14. 海洋博物館
  15. マレ地区を歩く
  16. チュイルリー公園

どう考えても旅行の日程が短すぎる気がする。

明日、ヒジョンと『フレンチ・キス』を見ることにした。

「フレンチ・キス」という言葉について調べてみた。

四字熟語で言えば「舌往舌来」だ。

僕は死んでもこんなことはできない。

どんなにヒジョンでも、これは無理だ。

すまない。

朝、ヒジョンが『フレンチ・キス』を見に来てと電話してきたが、インフルエンザにかかったと嘘をついて行かなかった。

鼻が伸びようとしているのか、むずむずする。

ドンワンがモンゴルへ出発した。

ジョングとヘソンは英語キャンプへ行った。

祖父はダンススクールで「体つき最高」と言われているらしい。

いい意味ではなく、「体の動きが最悪」の最高という意味だ。

祖父、もっと頑張ってください。

ヒジョンに、今日はうちで旅行計画を見直そうと言った。

なぜなら、うちには『フレンチ・キス』のDVDがないからだ。

父さんは旅行の計画をまったく立てていない。

父さんはヒジョンと僕が計画を立てているのを見ると、

「お前たち、かわいらしく遊んでるな」

と笑った。

そして、

「お前たちはパリにしかいないんだから、計画なんていらないだろ。朝起きて、その日に行きたいところへ行けばいいじゃないか」

と言うではないか!

本当に父さんと一緒にパリへ行って大丈夫なのか心配だ。

「まあ、うちの父さんとそっくり」

ヒジョンが言った。

構わない。

どうせ父親たちは脇役だ。

今回のパリ旅行の主演俳優は、僕とヒジョンなのだから。

母さんは、僕がヒジョンと一緒に作った旅行計画表を見ると、うちの父さんとヒジョンのお父さんには無理だと言った。

こんなふうに歩き回ったら、二日で倒れるそうだ。

ヒジョンにその話をすると、じゃあ計画表をほんの少しだけ直そうと言って、今すぐ来いと言った。

ヒジョンの家へ行くと、ヒジョンはもう『フレンチ・キス』のDVDを用意していた。

うわあ!

ヒジョンのお母さんがヨーグルトを作ってくれた。

僕たちはそれをスプーンですくって食べながら、二時間映画に夢中になった。

『フレンチ・キス』はホラー映画ではなく、ロマンティック・コメディーだった。

幸い「舌往舌来」する場面はあまり出てこなかったので、ほっとした。

余計な心配をした。

パリが舞台の映画を三本も見たら、もうパリへ何度も行ったことがあるような気分になった。

わざわざ苦労して行かなくてもいいような気がしてきた。

金も節約できるし。

家に帰ると、父さんが『パリの場所たち』を読んでいた。

僕たちの旅行計画表を見て、心境の変化があったに違いない。

ものすごい雨が降っているのに、夕方ヒジョンの家で旅行計画表を最終確認した。

ヒジョンのお父さんは僕たちが作った計画表をざっと見ると、

「よくできてるな」

と言い、うちの父さんに、

「焼酎でも一杯どう?」

と言うではないか。

そこへ母親たちまで加わり、ヒジョンの家の居間は一瞬で酒場に変身した。

最初から酒が目的だったに違いない。

ヒジョンのお父さんの病院は明日から休みだそうだ。

ヒジョンのお父さんも、人生で初めてこんなに長い休暇を取ると言った。

父親たちが少し気の毒になった。

ヒジョンと僕は、ヒジョンのお兄さんの印象派の画集を見ながら時間を過ごした。

「印象派って、絵より画家のほうが好き」

ヒジョンが言った。

どういう意味だろう。

僕は聞かなかった。

自分で答えを探してみよう。

母さんも父さんも酔っぱらった。

車は駐車場に置いて、タクシーで家へ帰った。

天気がよくないので心配だ。

父さんが留学生夫婦に家賃と保証金を払い、宿の鍵を受け取ってきた。

鍵の一つはヒジョンのお父さんに渡し、もう一つはうちの父さんが保管することになった。

不安だけれど、とりあえず二人の父親を信じることにした。

まさか二人とも同時に鍵をなくすことはないだろう。

どうして男というものは職場ではあんなに頼もしいのに、職場を出ると急に不安に見えるんだろう。

謎だ。

夕方、荷造りをした。

母さんの助言どおり、父さんと僕はできるだけ荷物を軽くした。

父さんは小さなリュックに、服を数枚と洗面道具だけ入れた。

『パリの場所たち』は父さんが荷物に入れた。

父さんはこの本が気に入ったらしい。

それから父さんは、ジャン・グルニエの『島々』という本も一冊入れた。

海にでも行くつもりなのかな?

ヒジョンに電話すると、自分たちも荷物を軽くするつもりだと言った。

オーケー。

まずは出だしがいい。

コチュジャンからテンジャンまで山ほど詰めていく人たちとは、一緒に旅行できないではないか!

朝、ヒジョンの家へ遊びに行って、本当に思わず、

「今日、引っ越すの?」

と聞いてしまった。

「ほら、母さん! ビョクまで引っ越すのかって聞くじゃない!」

ヒジョンが台所に向かって叫んだ。

冗談ではない。

僕はヒジョンのお父さんの荷物を見て、本当に引っ越しでもするのかと思ったのだ。

空母くらいの大きさのスーツケース一つ、大きなリュック一つ、小さな手提げ鞄一つ。

見るだけでくらくらした。

ヒジョンのお父さんは、フランスで別所帯でも構える勢いだ。

非常事態だ!

うちの母さんがヒジョンのお母さんに電話し、ヒジョンのお父さんの荷物を半分に減らすよう説得した。

必要なら現地で買って使えばいいと言った。

ところがヒジョンのお父さんには、この話が通じなかった。

ヒジョンのお父さんは熱烈な国産品愛好家だ。

だからといって愛国者という意味ではない。

ヒジョンのお父さんは、世界の工場と呼ばれる中国の「メイド・イン・チャイナ」が嫌いなのだ。

「そんな重い荷物を持って歩いてたら、子どもたちをなくしますよ」

母さんの最後のカウンターパンチだった。

ヒジョンのお父さんは、荷物を半分のさらに半分まで減らした。

本当によかった。

ヒジョンがまたハンガーストライキに突入するところだった。

冷酷なジョンス叔母さんが出した数学の宿題を全部終えた。

明日の朝、ヒジョンと一緒に叔母さんの家で宿題を見てもらわなければならない。

叔母さんは、僕たちは二週間も数学の勉強ができないのだから、手加減できないと言う。

ジェイミーおじさんは、楽しんでこいと言った。

ジェイミーおじさんは宿題なんて絶対に出さない。

そのときそのとき、話したいことだけ話せばいい。

朝早く、祖父と祖母に挨拶してきた。

祖父は父さんに、旅行費用の足しにしろと言って封筒を一つ渡した。

父さんは僕には見せもしないで、そのまま知らん顔をしている。

いくら入っているんだろう。

でも構わない。

どうせパリでタバコを一本吸うたびに写真を撮ればいい。

あの金は全部僕のものになるに決まっている。

祖母は僕に、父さんの言うことをよく聞いて、無事に帰ってきなさいと言った。

僕はしばらく霧に包まれた。

なぜなら家では、父さんはいつも母さんに、

「俺の言うことなんか聞くな。自分の好きなようにしろ」

と言っているからだ。

僕は丁寧に、

「はい」

と答えた。

ほかに選択肢があるだろうか。

今は落ちてくる雨粒にまで気をつけるべき時期なのだ。

午後はヒジョンのお母さんに挨拶しに行った。

ヒジョンのお母さんが僕に、

「ビョク、うちのヒジョンをよろしくお願いしますね」

と言った。

うははははは!

これは僕を婿候補として認めるということではないか?

僕は、

「はい、もちろんです」

と自信満々に答えた。

ヒジョンが笑う。

僕も笑う。

僕たちが笑うと、ヒジョンのお母さんも笑う。

もう8月だ。

幸せだ。