9月 セーター

9月は意味深い月だ。ヒジョンの誕生日がある月だからだ。8月22日はヒジョンと付き合い始めてちょうど100日目だったのに、学級委員長選挙でばたばたしていて、うっかり忘れてしまった。幸いヒジョンも、100日記念なんてものにはあまり関心がないようだ。僕はこういう大らかな女の子が好きだ。

とにかく今度のヒジョンの誕生日で挽回しなければ。ところで、何をプレゼントしよう?

家へ帰る途中、ヒジョンが真剣な顔で、自分のことが好きかと聞いた。もちろん好きだと答えた。本当は愛してると言いたかったけれど、ヒジョンが重く感じるかもしれないので、好きだとだけ言った。ところがヒジョンは少しためらってから、こう言うではないか!

「じゃあ、どうして100日記念はそのまま忘れちゃったの?」

非常事態!

非常事態!

非常事態!

胸がものすごく痛い。乳首のあたりに、何かころころしたものが触れる気がする。がんのしこりだろうか? 中国の伍子胥は一晩で髪が真っ白になったそうだけれど、僕は一晩で体の中に大きながんのしこりができたようだ。このまま死ぬのだろうか? ごめん、ヒジョン! あの忌々しい学級委員長選挙のせいで、僕たちの大切な100日記念を忘れてしまったんだ。

授業が終わると、ジョンス叔母さんが昼ごはんにコングクスを作ってくれた。僕がろくに食べず、箸でちまちまいじってばかりいると、叔父さんがどうしたのかと聞いた。僕は何でもないと言った。ところが叔父さんは、さすが校閲記者だけあって、しつこくもう一度聞いてきた。僕はとうとう、昨夜から胸が痛いと言った。ヒジョンが薄情にも、くすくす笑った。僕は一晩じゅう体の中でがんのしこりを育てていたというのに……。

叔父さんが僕の胸を一度触ってみると、

「胸が大きくなろうとしてるんだよ。思春期の男はみんなそうだ。心配するな」

と言うではないか!

僕が、

「本当ですか? これ、がんのしこりじゃないんですか?」

と聞くと、叔父さんはげらげら笑った。ジョンス叔母さんまで、口に入っていた麺を吹き出しながら笑いだした。ヒジョンの目には涙まで浮かんでいた。みんな笑いすぎて、顔面麻痺でも起こしたようだった。

叔母さんの家を出てヒジョンを送っていく途中、ヒジョンがそっと僕の手を握った。

今度のヒジョンの誕生日には、空の星でも取って捧げなければ。

父さんは今、ローマにいる。まさかローマの七つの丘を全部登っているわけじゃないだろうな? 父さんが秋夕の前に帰ってくるといいのに。

父さんの本棚から『二重らせん』という本を持ってきた。最初は題名だけ見て、ボルトやナットを作る機械工の話だと思った。「らせん」を「ねじ」だと勘違いしたからだ。最近、本からあまりにも遠ざかっていたので、もしかして失読症にでもなったのだろうか?

『二重らせん』は本当に面白い本だ。実は少し恥ずかしい話だけれど、僕はこういう陰口みたいな話が面白い。それにしても、DNAの鍵を解いた張本人たちが、こんなに抜けた人たちだったとは驚きだ。科学者も大したことないのかもしれない。

新学期が始まってまだどれくらいだというのに、もう中間試験だという。今日、中間試験の日程が発表された。

前学期は科学の点数がひどかった。今日から毎日一時間ずつ科学を勉強することに決めた。ワトソンとクリックにもできたんだから、僕にできないはずがあるものか!

科学を甘く見ていたら、ひどい目に遭いそうだ。

ヒジョンの家で一緒に科学を勉強した。ヒジョンのおかげで、科学の「か」の字くらいは分かるようになった。

朝晩は涼しい。暑さも少し和らいだ。もうすぐヒジョンの誕生日なのに、お小遣いが入るあてがない。あまりお金のかからない、素敵なプレゼントはないだろうか?

明日から秋夕の連休なのに、父さんはまだローマにいる。父さんは昨日、アッピア街道というところへ行った。「すべての道はローマに通ず」という、その道の一つだそうだ。写真を見ると、父さんは真っ黒に日焼けしていた。健康そうだった。そして幸せそうだった。父さんが幸せなら、僕もうれしい。

父さんは何を探しているのだろう。父さんは何を見ているのだろう。気になる。

父さんの本棚から、題名が気に入った本を二冊持ってきた。少し開いてみたら怖くなって、また元の場所に戻した。一冊は『チャン・ジョンイルの読書日記』、もう一冊は『幸せな読書』だ。いったい何をしている人たちなのか、一日一冊きっちり本を読んで、そのうえ感想まで書いている。

きっと何か大罪を犯して、こんな過酷な刑罰を受けているに違いない。なるべくこの本たちには近づかないようにしよう。

明け方、眠れなくて、あの怖い本を二冊また取り出して読んだ。内容が難しくて何を言っているのかよく分からない。でも、下の二つの文章なら僕にも分かる気がする。僕の日記の文学的品格のために引用しておく。

去年もっとも熱心にやったことは、ジャズCDを買い集めることだった。一年あまりで250枚以上の輸入盤を買ったので、本屋へ行く余裕が減った。それでも心はどれほど楽しいことか。私は一生読みきれもしない本を買い集め、それを読むだけで暮らすことになるのではないかと恐れていた。ところが今や、もっと恐ろしい幽霊が現れたのだから、本などあっちへ行け。せっせと1000枚集めてジャズ・カフェを開こう!
(『チャン・ジョンイルの読書日記』、チャン・ジョンイル、1994. 1. 1.)

自分の書いた文章を読むたびに、文と文のあいだの距離がとても遠いと感じることがある。文と文のあいだの沈黙が、ますます怖くなる。
(『幸せな読書』、キム・ヒョン、1986. 6. 16.)

最近はカフェをやるとみんな潰れるっていうけど、チャン・ジョンイルおじさんにどうやって教えてあげよう?

文と文のあいだの沈黙が怖いなら、接続詞を使ってください。キム・ヒョンおじさんがまだ生きていたら教えてあげるのに……。

他人の日記を自分の日記に書き写しながら声に出して読んでみると、なかなかいい感じだ。

明日が秋夕なので、祖父の家へ行っていろいろ手伝いをし、一日じゅう忙しかった。母さんも秋夕の料理を用意するため、祖母と一緒にばたばたしていた。今、母さんは疲れたと言って横になっている。僕が肩を揉んであげると言ったら、大丈夫だと言う。母さんは鋼鉄の体力だ。弱音も吐かない。会社の仕事に家のことまで、母さんも本当に大変だろうな。

秋夕には、どうしてお年玉がないんだろう? 秋夕にも新年みたいにお辞儀をしてお小遣いをもらう伝統があればいいのに。うちの緊縮財政の余波で、僕の恋愛生活は大きな難関にぶつかっている。

祖父が、朝晩は涼しくなってきたから、済州島で買ってくれたセーターを着て歩けと言う。まだ少し暑いけど……。

祖母によると、祖父はダンススクールで隠れた才能を発見したらしい。おばあさんたちのあいだで大人気なんだとか。年を取ってからのダンス狂いは怖いと言うけれど……。心配だ。

祖父が白い革靴を一足買った!

今年の秋夕は、どうしてこんなに味気ないのか分からない。たぶん中間試験のせいだ。いや、父さんがいないせいかもしれない。

試験勉強で午前中ずっと机に座っていたら、お尻がじんじんする。僕はベッドにもたれ、オルセー美術館で買った絵葉書を眺めた。ゴッホの『昼寝』がいちばん好きだ。この絵葉書を見るたびに、心がほぐれる。ヒジョンもこの絵がいちばん好きだった。僕たちはオルセー美術館で、この絵を本当に長いあいだ見ていた。

「ずいぶん疲れているみたいですね?」

僕は絵の中のおじさんに聞いた。

「しーっ」

おじさんは帽子をどけて僕を見ると、静かにしろというように指を唇に当てた。

「女房が寝てるだろ」

「休んでるところ、すみません」

「まあな。今日は昼寝をするには日差しがちょうどいい」

おじさんは起き上がり、干し草の山に背をもたせながら小声で言った。

「ところで、ヒジョンにあげるプレゼントは決めたのか?」

「いいえ、まだです」

「もう何日もないだろ。どうするつもりだ?」

「そうなんですよ。お小遣いもあまりないし、ヒジョンが何を好きなのかもよく分からなくて」

「いや、ヒジョンとオルセー美術館にまで一緒に行ったじゃないか。ヒジョンが何を好きなのか、よく考えてみろ」

「うーん……。ヒジョンは本と音楽と絵が好きです。学校の勉強もよくできますけど、それが好きそうには見えません」

「ほかには?」

おじさんが小声で僕に聞く。

「ほかって何ですか?」

「お前のことが好きだろ」

「はい、そうみたいです」

僕はにやっと笑う。

「ヒジョンに高いものを贈ろうとしないで、自分の気持ちを表してみろ」

「それって何ですか?」

「それはお前が考えなきゃ」

おじさんが、寝ている奥さんを一度見る。

「女っていうのはな、宝石が好きなこともあるけど、男の気持ちのほうをもっと好きなんだ。もし宝石のほうにもっと喜ぶ女なら、別れたほうがいい」

「この前、本を読むのを聞いたら、声がよかったけど」

おばさんが僕たちの会話で目を覚ましたのか、あくびをしながら言った。

「すみません。休んでるのに邪魔しましたよね?」

「もちろん、邪魔したわ。でも大丈夫。もう起きる時間だし」

おばさんが言った。

「そうね。本を読んであげなさい。あなたの好きな本を一冊プレゼントして、それを読んであげるの」

「何の本がいいですか?」

「それはあなたが考えなきゃ」

おばさんが指で頭を示した。

「シャーロック・ホームズはどうですか?」

「それならイソップ寓話でも読んでやれ。イソップ寓話!」

おじさんが首を振りながら笑う。

突然、風が吹く。

おじさんの帽子が風に飛ばされ、ふわりと空に浮かぶ。

おじさんとおばさんが、踊る帽子を追いかけてあちこち走り回る。

僕は思わず笑ってしまう。

「ヒジョンから電話よ。出なさい」

母さんが僕を揺すって起こす。

「うーん?」

「ヒジョンから電話」

母さんが僕に電話を渡す。

ヒジョンは、9月24日にジョンス叔母さんの家で勉強が終わったら、一緒に昼ごはんも食べて映画も見て遊ぼうと言う。

もちろん。

その日はヒジョン、お前の誕生日だもんな。

祖母が、もうダンススクールには行かないと大騒ぎしている。祖母は祖父と大喧嘩をした。あの白い革靴のせいだという。

昨日、祖父が白い革靴を履いてダンススクールへ行ったら、おばあさんたちが祖父を放してくれなかったらしい。祖父もそれを内心楽しんでいたので、祖母の機嫌が完全に悪くなったようだ。祖母は最近、ダンススクールへ行っても祖父と踊る機会が回ってこないと言った。祖父はダンススクールへ行くために、身支度だけで30分以上もかけるそうだ。

でも、これの何が問題なのか分からない。年を取ってもきれいにして歩いたほうがいいじゃないか。それに地味な黒い靴より、白い革靴のほうがずっと格好いいじゃないか?

「祖父が格好よくて、ハンサムで、ダンスが上手なのは祖父のせいじゃないでしょう。先にダンススクールへ行こうって言ったのも祖母だし」

と僕が言うと、母さんはこう答えた。

「あなたはまだ子どもだから分からないの」

子どもだから分からないって、僕だって分かることくらい全部分かってますよ。年を取ったからといって知っていることが多いわけでもないのに、どうして大人は年齢だけで判断するんだろう。

祖母は今、うちに来ている。

中間試験が来週なのに、もし成績が下がったら、これは全面的に祖父と祖母の責任だということにしておきたい!

祖父が白旗を揚げた。あの忌々しい白い革靴は捨てることになったそうだ。

祖父の白旗降伏は、実はすでに予想されていた。

祖父は祖母なしで一人暮らしをしたら、数日で餓死するか、不潔になって死ぬだろう。祖父は祖母の作ったごはんでなければ、ほとんど食べない。祖父が外食するところを、僕は一度も見たことがない。父さんによれば、祖父は現役で働いていたころも、いつも弁当を持っていったそうだ。

そして祖父は一日に下着だけでも二、三回着替える。これは祖母から直接聞いた話なので、さらに信憑性が高い。

祖母が家へ戻らなければ、祖父の衛生状態には赤色警報が発令され、祖父は惨めに死んでいくかもしれない。

だから祖父は、白い革靴どころかガラスの靴だって捨てるしかない。

どうも僕の潔癖症は遺伝らしい。

僕はジェームズ・ワトソンの『二重らせん』を読んだから、これは確実だと言える。

祖父と祖母が卓球場に登録した。

ピンポンは愛を乗せて……。

ダンススクールのおばあさんたちだけが、かわいそうなことになった。

ジョンス叔母さんが出した数学の問題を、たった一問しか間違えなかった。叔母さんも驚き、ヒジョンも驚いた。僕はもっと驚いた!

叔母さんは、

「うちのビョクは私に似て、数学の才能があるのね」

と言った。

叔母さんのこの言葉は、遺伝学的に非常に妥当だ。僕はジェームズ・ワトソンの『二重らせん』を読んだから、確実に分かる。

「よかったな。お前の母さんに似てたら、数学なんてまるでできなかったぞ」

と叔父さんが口を挟んだ。

「え? うちの母さん、数学できなかったんですか?」

「うん。お前の母さんは『数学放棄生』だったの。数学を諦めた生徒ってこと」

叔母さんが笑いながら言った。

遺伝学というものは、かなり不透明な学問に違いない。

秋の雨がしとしと降る。

この雨がやんだら、肌寒くなるだろう。

祖父と祖母が買ってくれたセーターを出して着よう。

もう街には落ち葉が転がるだろう。

そうしたら僕の心の片隅も、少し寂しくなるだろう。

蒸し暑い夏が遠ざかり、もの寂しい秋の雨だけが
道路を濡らし、大気を濡らし、僕の心を濡らす。

くそったれの秋雨! もういい加減やめろ!

数学と科学の勉強に夢中になりすぎて、国語と社会をあまりにもおろそかにした。僕はそれなりに高度な韓国語を使いこなしているんだから、国語の点数はどうにかなるだろう。社会は授業態度がよかったから、平均くらいはいくだろうし。

そう思ってはいるけれど、少し不安だ。

朝の気温が12度までガクン! と下がった。成績もこんなふうにガクン! と下がりそうだ。大変だ。

試験一日目。

国語。どうして点数が出ないのか分からない。こんなに韓国語を流暢に使いこなしているというのに。

社会。キム・スヨン先生への尊敬の気持ちで、クラス平均は超えた気がする。

試験二日目。

英語。ジェイミーおじさんとの英語の勉強と学校の試験には何の関係もないということを、ついに僕自身が証明した。

科学。満足できる点数ではないけれど、それでも少しは成績が上がった。

試験三日目。

数学。これはいったい、何という怪異な出来事だ。もし誰かに、いちばん簡単な科目は何かと聞かれたら、僕はこれから数学だと答えなければならない。

いつか作家になって、誰かに、

「学生時代は国語がいちばん得意で、好きだったんでしょう?」

と聞かれたら、僕は、

「いいえ。いちばん嫌いだった数学が得意でした」

と答えなければならない。

悲劇だ。

でも試験は終わった。点数はひとまず大らかに放っておこう。

ついに明日はヒジョンの誕生日だ。

最善を尽くそう!

憂鬱だ。

ヒジョンが風邪をひいた。

ヒジョンは今日、数学の勉強も英語の勉強も休んだ。僕はジョンス叔母さんの家で授業が終わるなり、ヒジョンに電話をかけた。

本当に最初は、ヒジョンの声だと分からなかった。

ヒジョンは喉がひどくかれて、ハスキーな男の声で話した。

ところが不思議なことに、この声がものすごく魅力的に聞こえた。

ヒジョンは、今日はどうしても会えないと言う。

僕までインフルエンザにかからせるわけにはいかないそうだ。

僕は平気なのに。

僕は電話で誕生日を祝った。

朝、目を覚ますなりヒジョンに電話した。幸いヒジョンは熱もかなり下がり、喉の痛みも少し治まったそうだ。

僕は朝ごはんを適当に済ませ、光の速さでヒジョンのところへ走っていった。

少し肌寒かったので、祖父と祖母が買ってくれた黒いセーターを着ていった。

ヒジョンは玄関の扉を開けながら、風邪がうつったらどうするつもりで来たのかと言った。

でも、ヒジョンはうれしそうだ。

僕には分かる。

ヒジョンのお母さんは僕の黒いセーターを見ると、本当に真っ黒ねと言った。

ヒジョンは僕の腕を一度なでて、手触りがふわふわしていてすごくいいと言った。

そしてヒジョンは部屋へ入り、白いセーターを着て出てきた。

パリでヒジョンのお父さんが旅行の記念に買ってくれた、あの真っ白なセーターだった。

僕たちはリビングのソファに座り、ヒジョンのお母さんが淹れてくれた温かいココアを飲んだ。

ヒジョンのお父さんが部屋から出てきて僕たちを見ると、猫が二匹いるみたいだと言った。

僕はその言葉が気に入った。

猫が二匹。

なんて暖かいんだろう。

黒猫と白猫。

心地よい気分になった。

もちろん、ヒジョンのお父さんがテレビをつけてクイズ番組を見ながら、立て続けに間違った答えを言い始める直前までの話だけれど。

ヒジョンのお母さんが、僕たちに部屋へ入って遊びなさいと言った。

たぶんヒジョンのお母さんは、夫が一問も正解できず、一家の主としての権威を失うのを未然に防ぎたかったのかもしれない。

実を言えば、僕はそういう姿にはかなり慣れているので、別に平気なのに。

僕はヒジョンの部屋で、誕生日プレゼントに持ってきた本を渡した。

パトリック・ジュースキントの『ゾマーさんのこと』だった。

美しい物語と、さわやかな水彩画が本の中に入っている。

僕とヒジョンは壁にもたれて座った。

そして僕は、一ページ目から小さな声で本を読み始めた。

「ぼくがまだ木のぼりをしていたころ――遠い昔、ずっとずっと昔のこと――身長は一メートルと少し、足のサイズは28、体重ときたら空が飛べるほど軽かった。ウソじゃない、あのころはほんとうに空を飛べた。ほとんど飛べた。いや、もっと正直に言えば、あのころ本気でそうしようと思い、きちんと実行に移してさえいれば、実際に自分のからだを空へ飛ばす力があったように思う……。」

僕が小さな声で本を読み続けると、ヒジョンが目を閉じる。

僕は本から目を離していないけれど、それが分かる。

ヒジョンが膝を立て、頭を僕の肩にもたせる。

僕はそのまま本を読み続ける。

ヒジョンが笑う。

僕はまだ本から目を離していないけれど、ヒジョンが笑ったのが分かる。

ゾマーさんが雹に打たれながら歩く場面を読んでいると、ヒジョンが、自分のセーターの白い毛糸が僕の黒いセーターについていると言った。

そして僕の黒いセーターについた白い毛糸を、一つずつつまんで取る。

ヒジョンが白い毛糸を全部取り終えると、僕はまた本を読む。

ヒジョンがもたれかかる。

すると白い毛糸がまた黒いセーターにつく。

ヒジョンが笑う。

そして僕の黒いセーターについた白い毛糸を、また一つずつ取る。

僕たちのせいで、ゾマーさんはまだ雹に打たれたまま立っている。

ヒジョンが僕のセーターについた白い毛糸を全部取り終えると、僕は落ち着いて本を読む。

ヒジョンがそっと僕の腕に自分の腕を絡める。

僕の黒い左腕に、ヒジョンの白い毛糸がくっつく。

僕は笑う。

ヒジョンも笑う。

僕は静かな声で本を読む。

インフルエンザにかかった。

一行も書けない。

ヒジョンと、ドンワンと、ジョングと、ヘソンが見舞いに来ると言ったけれど止めた。

僕は死の伝道師になりたくない。

悪寒がして喉も痛くて、本当に死にそうだ。

二日目の欠席だ。

どうして僕がインフルエンザにかかったのか分からない。

母さんに、僕が死んだら黒いセーターを着せたまま埋めてくれと言っておこう。

フランスから手紙が来た。

母さんによると、パリのオテル・デュー病院から送られてきたものだそうだ。

前に救急外来で治療を受けた診療費の請求書だった。

やっぱり!

この人たちが無料で治療してくれるはずがない。

注射一本に、たった三針縫っただけで83.46ユーロも請求してきた。

人を金づるだと思っているらしい。

ところで8月11日に出した郵便物が、どうして今ごろ届いたのか分からない。

母さんが封筒を見ると、うちの住所がおかしいと言った。

住所をよく見ると、国名が RépDémPopCorée となっている。

母さんが声を上げて笑いながら、僕にパリで北朝鮮人のふりでもしたのかと聞いた。

うわあ!

国家情報院に利敵行為で捕まるかもしれない。

もし国家情報院に連れていかれたら、全部ヒジョンのお父さんのせいにしよう。

パリのオテル・デュー病院から請求された診療費は、全部旅行者保険で払うことになった。

でも、あまりにもけしからん。

僕の住所を勝手に北朝鮮へ変えるなんて。

ヒジョンのお父さんは、あの日病院でうちの住所を書くとき、間違いなく REPUBLIC OF KOREA と書いたそうだ。

そして RépDémPopCorée という言葉自体、今まで一度も見たことがないと言った。

本当にパリのオテル・デュー病院を訴えてやりたい。

今回の中間試験では、ドンワンの成績がかなり下がった。

ジョングが1位で、ヒジョンが2位だ。

僕も成績は上がったけれど、まだ先は長い。

ヒジョンくらいの実力になるには、もっと一生懸命勉強しなければならない。

ヒジョンのために、これくらいできなくてどうする!

ドンワンは前の学級委員長選挙のことなんて気にしていないと言っていたけれど、僕にはそう見えない。

心の中にわだかまりが残っているようだ。

当然だ。

僕だって後味が悪い。

最近、ヒジョンと付き合うのに夢中で、ドンワンをあまりにほったらかしにしていた。

ごめんな、友よ。

それでも一つ救いなのは、ドンワンが最近、うちのクラスのミナと付き合っていることだ。

ミナは静かでおとなしい子で、前の学級委員長選挙のとき、ドンワンに一票入れたそうだ。

正式に付き合っているわけではないようで、たぶんまだ探り合いの段階なのだろう。

頑張れ!

明後日、父さんがついに帰ってくる。

ドンワンのやつ、知ってみたら、とんでもない隠れ恋愛の達人だった。

どうしてこんなに成績が下がったのかと思ったら、ミナに数学と英語と科学を教えていて、自分の勉強をあまりできなかったそうだ。

どうりで今回の中間試験のあいだ、一度も僕に一緒に勉強しようと言ってこなかったわけだ。

しかもミナと付き合い始めたのは学級委員長選挙のあとではなく、その前だという。

それなら夏休み前から付き合っていたということじゃないか。

これは駄目だ。ここまでこっそりやってたとは、とんでもないやつだ。

ドンワンのやつ、彼女ができたからって、僕をこんなにないがしろにするとは。

こんな冷遇があるものか!

まさか夏休みに、ミナと一緒に馬に乗りにモンゴルへ行ったんじゃないだろうな?

聴聞会を開かなければ!